M&Aを学ぶ
M&Aとは
Mergers(合併)とAcquisitions(買収)

M&Aを行う上でのメリット

売り手側メリット
①後継者不在・事業承継問題を解決できる
社外に後継者を求められることがM&Aの大きなメリット。 M&Aを実行し、第三者承継により新しい経営者を迎えることができれば、後継者問題が解決され、企業は存続し続けることができる。
中小企業庁の調査によると、中小企業の経営者平均年齢は年々上昇、2020年には30万人以上の社長が70歳超え。同時に、中小企業の70%近くが「後継者不在」と回答。
②従業員の雇用を安定させ、さらなる活躍の場を与えられる
廃業や精算で従業員を解雇するのは、経営者として苦渋の決断。M&Aを活用することにより、従業員の雇用を守れる可能性が高まる。
中堅・中小企業のM&Aでは多くの場合、「従業員の雇用維持」が譲渡先への条件のひとつ。M&A実行後、従業員は新しいオーナーのもと同条件で引き続き雇用され、お客様や取引先もそのまま継承されるケースが一般的。
また、上場企業や大手の傘下に入ることになれば、従業員によりよい労働環境、安定した雇用の場を提供することも期待できる。
③事業の継続や拡大が見込める
事業を継続させるだけでなく、譲受企業の資本力を活用して経営資源を補えるため、事業の拡大も見込める。さらに、シナジー効果によるノウハウや技術の融合、顧客・販路の統合、業務の共有化、設備の共同化などでも、事業拡大を加速させられる。
④企業の経営基盤が強化される
譲受企業の設備・技術・販路・顧客情報・人材・ノウハウなどの経営資源を得ることで、不足していた経営基盤の強化を果たせる。また、採算の合わない事業を譲り渡した場合、経営資源を注力事業に集めることができる。
⑤企業のブランド力・信用力が強化される
上場企業や大手企業が譲受企業である場合、傘下のグループ企業としてブランド力や信用力が強化されます。それによって新たな取引先との契約にもつなげられる。
⑥技術やノウハウが承継される
廃業を選択すると長年磨いてきた技術や蓄積したノウハウが失われる。M&Aによる事業承継では、譲受企業に経営権だけでなく育ててきた技術や試行錯誤を重ねたノウハウも失わずに次世代に引き継ぐことができる。
⑦個人保証(経営者保証)を解除できる
個人保証とは企業が金融機関から融資を受ける際に、経営者などの個人が返済を保証すること。中小企業では経営者が個人保証を行い、金融機関から融資を受けているケースが多く見られるが、M&Aでは譲受側による融資の肩代わり、もしくは保証そのものを引き受ける形で個人保証の解除が可能。
⑧創業者利益が得られる
中小企業の多くは未上場であるため、株式を現金に換えにくい。しかしM&Aにより株式譲渡を選ぶと、株式を保有するオーナーが譲渡益を獲得することができ、大きなキャッシュポイントとなる。
買い手側メリット
①売上規模の拡大、シェア向上
既存事業の強化・拡大のために同業の会社を譲り受け、事業拡大、業界内でのシェア向上を目指すためのM&Aがある。同業の会社であれば、商流が非常に似通っているため仕入れや発注面などで大きなコスト削減が実現できるケースも多く存在。
②バリューチェーンの補完による関連事業領域拡大
既存事業を強化する場合、同じ業種の企業のほか、関連する事業分野の企業を譲り受けることも有効。自社にない関連事業をグループ内に入れることにより、例えばメーカーであれば販売店を譲り受けることで製造から販売まで一貫して事業を行うことができる。
③事業の多角化、新規事業参入
新規事業の展開を行う際にもM&Aが活用されるケースが増えています。自社でイチから新規事業を立ち上げるよりも既に事業展開している他社を取り込むことで、人材やノウハウの獲得含めスピーディーに展開できるため。
④人材の獲得、技術力向上
人口減少に伴い、多くの業種において人材獲得を目的とするM&Aは活発化している。
建設・建築業界や運送業界、調査委薬局、病院など、業務内容とスタッフの保有資格が、業績や事業規模の拡大に不可欠な業界では、有資格者を獲得するためのM&Aも行われている。有資格者や技術者を招くことで自社の新たな分野への展開、技術力向上につなげられる。
⑤シナジー効果の創出
企業はそれぞれが異なる取引先や販路、人材などの経営資源を保有している。M&Aでは同業種、異業種間とさまざまなパターンがあるものの「より成長させるためにシナジー効果がどのように見込まれるか」という点は、非常に重視される。
M&Aで見込めるシナジー効果には、バリューチェーンや資金調達面、会計面など目に見えるものの他、従業員のエンエンゲージメントなど外からはわからないものなど数多く存在する。
M&Aを行う上での留意点
売り手側の留置点
①既存顧客や取引先との契約・関係性が変わる
M&Aを検討する上で、既存顧客や主要な取引先との契約内容の確認が必要。注意すべき代表的なポイントとして、
②従業員の雇用条件・労働環境が変わる
従業員の雇用を守る、引き継ぐためにも従業員の雇用条件も重要な論点。
とくに事業譲渡では雇用契約を結び直すため、雇用条件が現状から変更される可能性もあるので注意が必要。優秀な人材の流出を防ぐためにも、雇用の継続だけに焦点を当てず、雇用条件を維持できるように交渉・成約を進める必要がある。
③企業文化のミスマッチがおきる
人事や社内システム、組織体系などハード面が統合できても、それぞれが築いてきた企業文化の統一には時間を要するもの。福利厚生や権限移譲の範囲、実務の仕方、時間外の交流などの統一を無理に推進すると従業員から反発が起きかねないため、
④想定していた価格で譲渡できない
譲受企業は譲渡企業の将来の事業運営を見据えて売却価格を決める。そのため「高い収益性が見込めない」と判断されると売却価格が想定を下回る場合も。そうしたケースを避けるためには、利益率を上げるなど企業価値を高めるための対策が必要。
買い手側の留意点
①短期間に相乗効果が表れにくい
M&Aの検討から実行~成約までおよそ1年半かかる。M&Aは実行後からが本番であり、買収後の経営統合は長期的に取り組む覚悟が必要。歴史や社風の異なる企業同士が一朝一夕で上手くいくことはない。M&A後のシナジーを発揮するには、中長期で取り組む覚悟が必要。成果の出しやすい取組を優先して行い、M&Aによる企業の成長を少しずつでも実感してもらうことが有効な手段の一つ。
②統合後の組織再編がスムーズにいかない
M&Aによる統合では、進め方を誤ると統合がスムーズに進まない場合がある。
そのため、基本合意の段階で統合の戦略を深める、組織構成をシンプルにする、情報システム・人事・業務プロセスは片寄せをベースにするなどの対応が必要。
③簿外債務が発生する可能性がある
「簿外債務」は貸借対照表に計上されていない債務を指す。中小企業では仕分処理の際に「税務会計」を用いるため「簿外債務」が発生する可能性がある。そのため買収時に譲渡企業の簿外債務を引継いでしまうケースがある。このような債務を引継がないためには、事前のデューデリジェンス(買収監査)を徹底して行うことが必要。
④のれん代の減損リスクを抱える
のれん代とはブランドや人材、技術力、ノウハウを指し、貸借対照表の無形固定資産を意味。のれん代の価値は一定ではない。内外の影響によって価値が変わるため、買収時に見込んでいたシナジー効果が見込めなくなった場合、のれん代の減損が発生する。こちらも適切なデューデリジェンス(買収監査)で事前に把握し回避する、もしくはスムーズなPMIによって対処していく必要がある。
M&A成功のために重要なこと
組合せ(マッチング)
M&Aを成功させるカギは、自社に合った交渉先を探すこと。資本力があり、知名度がある企業ばかりが最適な相手とは限らない。そのためには、自社の強み・弱み・課題を整理することが大切。そうすれば、おのずと自社に必要な経営資源が浮かび上がる。
M&Aにおける「良い組み合わせ」とは
- シナジー効果が発現しやすい
- 相互補完的、あるいは戦略上重要な役割を果たせる
- 企業文化が似ている
条件交渉・エグゼキューション
どんなにシナジーが生まれて「良い組み合わせ」であったとしても、M&Aの条件次第では本来の目的を果たせなくなることがある。下記のポイントを意識しておくと良い。
- 譲受側(買い手)と譲渡側(売り手)は対等な立場であり、とくに譲受企業(買い手)は譲渡側(売り手)に対し「大切な会社を譲り受ける」というスタンスでのぞむ
- 譲受企業(買い手)は譲渡企業(売り手)の実態をできるだけ早い段階で把握し、企業実態や今後の統合を踏まえて、費用に見合うだけの効果が得られるか見定める
- リスクは徹底的に洗い出し、専門家を活用して回避策をとり、許容できる範囲内に抑える
M&Aでは、手法の検討からクロージングまでにかかる手続き(エグゼキューション)も成功を左右するポイント。候補企業とのマッチング後に下記の手続きが控えていることを認識する。
- 手法の検討
- 企業価値算定
- 交渉
- 基本合意書の締結
- デューデリジェンス(買収監査)
- 最終契約書への調印(成約)
アフターM&Aマネジメント(PMI、ポストマージャーインテグレーション)
M&Aの成功は、マッチングやエグゼキューション以降、つまり成約後の統合プロセスが重要。次の3つを意識して統合プロセスであるPMI(ポスト・マージャー・インテグレーション)にのぞむ。
- 譲受企業(買い手)が譲渡企業(売り手)に派遣する人材選定で最善を尽くす
- M&Aの検討フェーズの段階からアフターM&Aに関してのプランニングを行う
- 譲渡側(売り手)の社員のモチベーションを高めることに注力する
M&Aの流れ
M&A検討
情報収集し新夕可能性を検討する。
経験者、書籍、セミナーなど。
慎重になりすぎると適切なタイミングを逃してしまうため検討は長引かせない。
M&A準備
従業員に気づかれないように必要資料の収集
会社の実態の目安となる株価算定
様々な角度から株価算定を行う
M&Aを本格的に検討しようと決めて、M&A仲介会社に相手探しを依頼する場合は、提携仲介契約を結ぶことになる。
決算書や財務諸表、所有資産や組織などに関する資料を集めて提出すると、M&A仲介会社が正式な企業評価と、企業概要書の作成を行う。必要となる資料は、M&Aの情報が漏洩するのを防ぐため、経理担当者など従業員に気づかれないよう収集しなければならない。必要資料の種類が多く大変かもしれないが、ここでしっかり収集しておくことで、交渉中に譲受け候補企業から資料の開示を求められた際に、スムーズに対応することができ、信頼度が高まるだろう。
株価は譲渡価格の基礎となるもので、いったいいくらで自分の会社が売れそうなのか、目安を知るためのものだ。
株価算定で算出する価格は、あくまで目安の価格になるが、自社の実態を把握しM&Aの条件を固める上で算出しておく必要がある。
株価の算出方法は様々存在し、①
M&Aに限らず、今後の経営戦略を定める上でも、自社の相続税評価額株価とM&A実行時の株価は経営者として把握しておきたいもの。
企業概要書の作成
譲渡企業のプロフィール、事業内容、業務フロー、取引先構成、財務内容、組織体制、株主一覧、沿革、業界動向、抱えているリスク…等々の企業情報を要約した30~50ページの提案書。写真や図、最近では動画なども活用してわかりやすく譲渡企業の魅力をアピールし、決算書の数値データだけでは表しきれない今後の成長の可能性などを候補先に伝える。企業概要書は「お見合い写真」。 ポイントはマイナスな点も含めて包み隠さずすべてを伝えること。後にM&Aの交渉プロセスで、後から隠していたことが発覚すると相手企業から問題点を指摘されたり、最悪の場合は破談になりかねない。
マッチング
初期の準備が整った段階で相手選びに入る。
中堅・中小企業のM&Aにおいては、マッチングがすべてだと考える。まさに人間の結婚と同じで、「誰と結婚をするのか?」=「どの企業とM&Aをするのか」ですべてが決まってしまうのである。相性が悪い相手となら、いくら素晴らしい結婚式を挙げても、いくら素晴らしい契約書を作成しても成功しないのである。
大企業のM&Aは、ある意味選択肢が少ない。しかし、中堅・中小企業のM&Aは、譲受け企業候補となる数万社の中から、真に相性の合う相手を選びださなければならないのだ。
相手先企業を選定するにあたり、重要な見極めポイントは主に ①事業規模や業績など定量情報 ②同業種か異業種か ③社風 の3つ。
②については期待できる相乗効果が同業、異業種では大きく異なるため、自社の譲渡目的、相手の買収目的をふまえ、最初から選択肢を狭めずに広い視野で検討する必要がある。
譲り受け企業側は、 ・成長戦略 ・相乗効果 ・事業承継
※譲り受け候補企業への提案時は譲渡企業が特定されないように匿名ベースで企業概要を要約したニンネーム資料をもって提案する。 業種、企業規模、譲渡理由、特徴などをごく簡単に記載したもので、これが初期提案になる。初期提案に興味を持ったら、当社と譲受け候補企業との間で秘密保持契約を締結する。譲渡企業にとって名前を明かすのは一大事のため、「第三者に企業名が知られることはない」をいう保証が欠かせない。M&Aでは最初から最後まで、情報管理が成功のキーワードになる。このプロセスを経たうえで、譲渡企業の企業概要書を提供し、より突っ込んだ検討をしてもらう。
トップ面談
両社が互いに検討を進めたいという意思を固めたら、それぞれの経営トップ、オーナーが直接顔を合わせる「トップ面談」を行う。事業に関する質問はもちろん、書面からは読み取ることができない互いの人間性や経営理念などを把握し、相互理解を深める場として設定される。
トップ面談の目的を双方が認識し、当日は「直接の条件交渉をしない」「将来に向けてのビジョン、期待する効果を明確にする」「対等な立場で接する」ことを意識しのぞむことが求められる。
トップ面談では相性を確認する
両社が「このお相手とのM&Aの検討を進めたい」ということになれば、実際にトップ同士が顔を合わせる。初対面は誰しも緊張するが、できる限りリラックスした雰囲気作りに努めたい。第一印象を良くすれば、その後の進行もスムーズに行く。あまりに馴れ馴れしいのは好ましくないが、堅苦しいのは息が詰まる。お互いに、信頼感、安心感が持てるよう真摯に向き合うのが一番である。その意味では、早々から取引の細部にこだわり、財務の数字などについて相手を質問攻めにするのは避けたほうがいい。トップ面談で何を確認すべきかと聞かれることがよくあるが、実は中小企業M&Aの成立を最も左右するのは「従業員同士の気が合うかどうか」かもしれない。天気や食事、趣味などをテーマに気持ちをほぐしながら、適宜ポイントをついた質問を挟む。「私はあなたの会社に興味があります」ということが伝われば、段々と話は弾んでくる。このあたりの会話の呼吸は、普段の営業活動で行っている客先とのコミュニケーションの取り方と同じだろう。
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買収条件調整・基本合意書の締結
トップ面談を終えてから基本合意契約をするまでの検討が両者にとって最も重要なフェーズ。
譲受側(買い手)のポイント
譲受け企業が決断を下すまでに検討すべきことがある。
譲受け企業にとっては、トップ面談から基本合意契約までの検討が、最も重要なフェーズである。相手の「企業概要」を理解したし、相手の「社長の人物像や文化」も理解した。買収先の企業の理解は深まったわけだが、ではこの企業を自社に取り込んだときにどのような成長戦略を描き、どんな相乗効果を出すのか。これを徹底して納得いくまで検討しなければならない。
また、買収後、この企業を誰に経営してもらうのかも、重要なテーマである。自分で経営を兼任する、自社の幹部を出向させて社長にする、今の経営者に数年は経営を継続してもらう、今の譲渡企業の№2に経営を引き継いでもらう、他からヘッドハンティングしてくる—など、選択肢は多くある。そして、おおよその条件を詰めることも重要。
株価をいくらにするか?現経営者の引継ぎ期間はどうするか?退職金はいくらにするか?経営者個人が所有する不動産の取り扱いをどうするか?会社で所有する骨董品、絵画、ゴルフ場会員権、社有車、などの扱いの検討が必要なケースもある。
また、金融機関や取引先の引継ぎ方、テナント経営の大家さん、フランチャイザーとの契約、大口取引先との関係継続、等に関しても、協議しておかなければならない。社内検討だけでなく、譲渡企業の工場、テンポ、倉庫、などを見学してイメージを膨らませたり、また、現経営者と顕密な打ち合わせを行ったり、さらにはM&Aコンサルタントからのアドバイスをもらったり、といったことも大切である。
譲渡側(売り手)が基本合意契約締結に向けてふまえておくべきポイント
基本合意書はM&Aの決意表明
一方、譲渡企業は譲受け企業とのトップ面談などを通じて、「文化が合うか?」「従業員を大事にしてくれるか?」「会社を託せるリーダーシップと責任感があるか?」などを見ておく必要がある。
自分なりに交渉を前に進める気持ちが固まれば、ある程度の条件を見込んだ基本合意書を相手企業と取り交わす。この契約書を交わすことで、「よほどのことがない限り、あなたの会社とM&Aの最終合意に向けての交渉を続けます」との決意表明となる。「もっといい会社があるのでは」と、ひそかに別の相手先を探したいと思う人もいるかもしれないが、基本合意書を交わすことで、独占交渉権を相手に与えることになり、気持ちの上で「この会社一筋」という区切りをつける。これはお互いの信義の問題だ。結婚式で言えば、いわば婚約のようなもの。ここから、いよいよ最終契約に向けた確認や交渉に入っていく。
買収監査(デューデリジェンス)の実行
基本合意書を締結した後に行われるのは譲受け候補企業による買収監査(デューデリジェンス,以下DD)。財務・税務・法務・労務などの分野で、譲渡企業側が何か問題を抱えていないか調査する、いわば健康診断のようなもの。
M&A後に大きな問題が発覚することがないように、譲受け候補企業側が公認会計士など第三者の専門家に依頼し、実査が行われる。
中小企業では管理体制が万全なケースは少なく、DDを通じていくつか課題が見つかることが往々にしてある。それら一つひとつにこだわり続けるのではなく、まず解決すべき事項を明らかにし、対策を検討することが重要。
売り手企業の注意事項
売り手サイドの注意事項だが、従業員に気づかれないように土日などを使ってDDを行う場合が多い。従業員のサポートが得られないので、DDをする会計士に不便をかけることになってしまうが仕方がない。宿泊、交通機関、コピー機、お茶等の手配を、M&Aコンサルタントと打ち合わせて、不便のないように対応する。
また、DDですべての実態をさらけ出すことが非常に重要である。最終契約書には表明保証という項目が必ずある。これは、「私は、DDなどですべての問題点を明確に話した。それ以外の問題が発生すれば損害賠償に応じる」という項目である。したがって、DDですべての問題点を明確にしておくことが、後に禍根を残さず、信頼も得られることにつながる。
買い手企業の注意事項
買い手側の注意点は2つ。1つは調べたいこと、必要となる資料等を、事前に伝えておくことが重要である。中小企業では、顧問税理士に書類の管理を含めた多くの業務を委託していたり、それに加え大半の事項は社長の頭の中にあり、書面で十分な管理がされているわけでもない。DDで急に資料を要求しても出てこないことが往々にしてある。
もう1つはDDを依頼する公認会計士と十分な打ち合わせを行っておくことである。
中小企業と大企業は、財務会計と税務会計という違いだけでなく、管理体制そのものも大きくちがうので、依頼する専門家とDDのポイントを事前に打ち合わせておくことが重要である。
最終条件調整
最終条件を調整する局面で、譲渡側(売り手)が気を付けることは、 ①優先する条件の決定や売却を先送りにしない ②意思決定を他人任せにしない、の2点。
特に②は、実行を決めかねて周囲に判断を求めるあまり、決断が遅れて相手方が交渉を辞退する可能性もあるため注意が必要。
一方、譲受側(買い手)が押さえておくべきポイントは、 ①リスクを含めて買収する覚悟、 ②譲渡企業経営者の立場を考慮した処遇の決定。
リスク回避のために、譲渡側に無理な要求を続けてしまい破談を迎えてしまうケースもある。またスムーズに引継ぎを完了させられるよう、経営者の処遇を熟慮する必要がある。
最終契約に向けての交渉時に起こりやすいハプニング
DD後の点検作業を終えたら、最終契約に向けての交渉に入る。M&A仲介会社や弁護士や司法書士を交えながら、基本条件を再確認。買収価格やその支払い方法、譲渡企業社長の退職金やその後の処理、従業員の処遇などを確認する。趣味で集めた絵画や骨董品をどうするか、ゴルフ会員権や別荘の処分など、いわゆる細目事項についても、あとでトラブルのもとにならないように取り決めをしておく。
この最終決定の直前という段階で、ハプニングが起きることがたびたびある。
「ちょっと待ってほしい」と、引きつった表情で駆け込んでくる譲渡企業の社長もいれば、「ほんとにこれでいいのだろうか」と念押ししてくる譲受け企業の経営者もいる。無理もない。大きな決断を前にこの最終局面で気持ちが激しく揺れるのも当然だろう。そんなときは、少し落ち着いて改めて状況を整理することに努めよう。冷静に考える時間を作れば、自然と解消する。
最終契約締結・デリバリー(M&A実行)・決済
これまでの過程ですり合わせた条件にすべて合意したら、最終契約書を結ぶ。契約書に盛り込む内容は、主に下記のとおり。 (株式譲渡の場合)特に譲受側は、表明保証の事項を必ず盛り込むようにする。約束を取り決めていないと、譲渡後に問題が発覚しても損害賠償請求は難しくなる。
- 株式譲渡の合意
- 譲渡価額
- 対価の支払い方法
- 表明保証
- 誓約事項(譲渡日まで・譲渡日以後の義務)
- 付帯合意(M&Aの実行に合わせた取り決めがある場合)
- 損害賠償か補償解除
- 一般条項
最終契約書への調印を経て、株券や重要物品の授受(デリバリー)や決済が行われる。
デリバリー・決済で注意するポイントは、クロージングの条件・引き渡しなどが挙げられる。クロージングの条件を満たしていないと決済ができないため、最終譲渡契約に調印したあとでも最悪M&Aが白紙に戻されるケースもあるため注意。また案件によってはたくさんの重要物品(会社代表印、通帳等)を引き渡す必要があるため、引き渡しを忘れないよう同じ日に済ませるようにする。
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関係者への開示(ディスクロージャー)
最終契約後、従業員や取引先など関係者への説明、情報開示(ディスクロージャー)を行う。ディスクロージャー(情報開示)のタイミングは、M&Aを実行した直後が一般的だが、必要に応じて、重要取引先や幹部社員、M&Aプロセスに大きく関わってもらう従業員(経理担当者等)には、事前に開示することがある。重要取引先や幹部社員への事前開示や賛同がクロージング条件(資金決済条件)となることもある。
ディスクロージャー(情報開示)を行う対象は主に以下の通り。
- 譲渡側(売り手)の従業員
- 譲渡側(売り手)の取引先企業
- 譲渡側(売り手)の金融機関(メインバンクなど)
- プレス(新聞社等)
- 証券取引所 ※上場企業の場合
発表前の情報漏洩に注意するのは勿論のこと、発表のタイミングや伝え方、幹部社員への事前の根回しなど入念なシナリオが成功につながる重要な鍵となる。実績・経験豊富なM&A仲介会社のアドバイスを聞いて慎重に進める。
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PMI(ポスト・マージャ―・インテグレーション)
PMI(=Post Merger Integration)とは、M&A成立後の「経営統合プロセス」を指す。
新経営体制の構築・経営ビジョン実現のための計画策定・両社協業のための体制構築・業務オペレーション、ITシステム統合といった一連の取り組みのことを指し、M&Aによるリスクの最小化と、成果の最大化を目的としている。 成約後、M&Aにより目指す未来を実現させるまでに必要不可欠なプロセスとも言える。
譲渡企業への敬意をもってPMI成功へ
製薬後はM&A後の実際の運営を考えねばならない。譲受け企業には、ここからがM&Aの本番ともいえよう。M&A後の統合プロセス、PMIを順調に勧められるかどうかが、新会社の持続的な発展に直結する。譲受け企業にとっては、M&Aのプロセスで得た相手企業に関する情報が、経営展開を考えるうえで貴重なものになる。その意味では、PMIはM&A成立前から、譲受け企業の内部で戦略を練らなければならない。経営ビジョンの再構築、システムの導入、会計処理の統一、働き方の見直し、人事交流など、項目別に取り組むべき課題を挙げ、M&A成立後には練り上げた戦略を直ちに実行に移すスピード感をもってPMIを始める。
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M&Aの手法・スキーム
企業提携
資本移動を伴う提携(広義のM&A)
企業買収(狭義のM&A)
買収
M&Aにおける買収は、売却側の株式・事業を取得して経営権を買収側に移すこと。買収の方法は、取得する対象(株式・事業)によって、会社そのものを買収する「株式取得」と対象企業が運営する事業(一部または全部)を買収する「事業譲渡」の2つに分けられる。
株式取得・資本参加
株式取得はその名のとおり、相手企業の株式取得を通じて経営権(支配権)を取得することを指す。株式取得の具体的な手法として「株式譲渡」「新株引受」「株式交換」が挙げられる。
株式譲渡

株式譲渡は、対象会社の株主が所有する株式を譲受側(買い手)に譲渡する手法。
株式の売買によってM&Aを完了させるスムーズで簡易な手続きであり、売買の対価を株主(譲渡オーナー)が受け取れることから中堅・中小企業のM&Aでは株式譲渡が多く選択される。株券を発行している場合には株券の現物を譲渡するが、不発行会社の場合には現物は譲渡する必要はない。なお中堅・中小企業のM&Aにおいて、譲受側(買い手)は基本的には一部の株式ではなく100%全ての株式取得を求める。特に後継者が不在の事業承継型のM&Aにおいてはその傾向が強い。
新株引受
新たに株式を発行して、対価の払い込みを受ける方法。対価は売却側の企業に入るため、資金繰りの改善が見込める。新株引受では、特定の第三者に株式を発行(第三者割当増資)すれば、株式数に応じて売却側の議決権比率が変化する。
そのため、買収側の株式保有割合が半分を超えると経営権を移せるし、株式の保有割合が半分に達しなければ経営権を移さずに済む。
株式交換
株式交換とは、株式会社がその発行済株式の全部を他の会社に取得させることをいう。
発行済株式の全部を取得された会社を完全子会社、取得した会社を完全親会社といい、株式交換の対価が完全親会社の株式であれば、完全子会社の株式交換直前の株主は、株式交換後、完全親会社の株主となる。
他方で、株式交換の対価が現金であれば、完全子会社の株式交換直前の株主は、完全親会社に株式譲渡をしたのと同じことになる。
対価を株式とした場合、現金を使わずにM&Aできるが、譲受け企業(買い手)が上場会社でないケースではあまり用いられない。
事業譲渡・資産買収

事業譲渡とは、譲渡側(売り手)の事業について、一部あるいはすべてを買収側に譲り渡す手法。譲受側(買い手)は事業を譲り受け、M&A後は譲受側(買い手)がその事業を運営していくことになる。
譲渡側(売り手)のメリット
- 事業譲渡後も今の会社を引き続き運営できる点。 「今の会社を継続して所有したい」「対価を株主ではなく対象会社に入れたい」というニーズがある場合には譲渡側(売り手)のメリットとなる。
- 株主に何かしらの問題があっても、事業譲渡ならM&Aができる点。 通常の株式譲渡の場合、すべての株式を譲渡するには原則株主全員の同意が必要となるが、全株主から同意を得るのが難しい場合があるが、事業譲渡であれば、株主総会の特別決議(総議決権の過半数を有する株主が出席し、出席した株主の議決権の2/3以上の賛成)により実行できる。さらに簡易の事業譲渡に該当した場合には、株主総会ではなく取締役会の決議(取締役会非設置会社は取締役の過半数の決定)で実行できる。
※事業譲渡を選択した場合、譲渡側には一定期間、または特定の地域で競業を禁止する規定が設けられているため注意。
譲受側(買い手)のメリット
- 欲しいものだけ引き継ぐことができる点。 事業に最低限必要な資産・負債、契約のみを引き受けることから、投資額も少額に抑えることができる。
- リスクを遮断できる点 株式譲渡とは異なり、事業譲渡は事業だけを譲り受けることから、元の対象会社に紐づくリスクは引き継がない(対象会社に残る)。
- 営業権(いわゆる税務上ののれん)を計上できる場合には損金算入できる点
事業譲渡は、譲渡側の保有する事業の一部を譲受け側に譲渡する「一部譲渡」と、譲渡側の事業すべてを譲渡する「全部譲渡」の2つが存在する。
一部譲渡
全部譲渡
合併
合併は、複数の会社を一つに統合する手法。経営の合理化やコストの引き下げなどを目的に選ばれるのが特徴。さらに、合併は「吸収合併」「新設合併」の2つに分けられる。
吸収合併

一方の法人格を消滅させて、もう一方の会社にすべての権利義務を承継させる手法。消滅会社は清算の手続きを取ることなく、会社が解散する。国内企業での合併では、吸収合併が選ばれるケースが多く見られる。
新設合併

合併に関わるすべての会社が解散し、新設会社に権利義務を承継させる手法。対等な関係で合併を進められるため、吸収合併に消滅会社が抵抗を感じる場合に利用されている。
新設合併は許認可の取り直しが求められ、上場企業ではもう一度上場手続きが必要なため、手続きは煩雑といえる。
未対応ブロック(bookmark)
分割
会社分割とは、その名の通り会社の中身を分ける組織再編のことで、一部の事業を別会社に承継させること。ここでは事業を切り出す元の会社を「分割会社」、切り出した事業を受け入れる会社を「承継会社」と呼ぶ。
会社分割は、事業や資産を新設した会社に引き継ぐ「新設分割」と、既存の会社に引き継ぐ「吸収分割」にわけられる。
また、吸収分割と新設分割はそれぞれ、事業を引き継ぐ対価として交付される株式が誰に交付されるかによって、さらに「分割型分割」と「分社型分割」に区別される。
そのため全部で2×2=4パターンが存在する。

新設分割
新設した会社に事業・資産を引継がせる手法。事業部門を独立させて経営の効率化を図るケースなどで用いられているのが特徴。
さらに、新設分割は株式を割り当てる対象によって、「分社型分割」「分割型分割」の2つにわけられる。
分社型分割
株式の割り当て対象を分割した会社とする新設分割。分社型の新設分割では、株式譲渡と組み合わせた手法が選ばれている。
子会社の
未対応ブロック(unsupported)
分割型分割
株式の割り当て対象を分割した会社の株主とする新設分割。兄弟会社を作る組織再編などで活用されるのが、分社型分割といえる。
ただ、分割型分割は2006年の会社法改正で廃止された。現在は利用できないが、分社型分割後に株主に余剰金などの配当を済ませると、分割型分割のような効果を得られる手法だった。
吸収分割
既存の会社に事業・資産を引継がせる手法。承継の対価に株式を選ベば資金力がなくても対象事業を承継できるため、ベンチャーによる大企業のM&Aなどで利用されている。
承継の対価を株式とすれば資本参加のような効果を得られるし、対価に現金を選べば事業譲渡に近い効果を得られる。
吸収分割も新設分割と同じく、株式を割り当てる対象によって「分社型吸収分割」「分割型吸収分割」の2つの手法に分けらる。
分社型分割
既存会社の株式などを分割会社に割り当てる手法。株式を割り当てれば資本関係が構築されるし、現金なら資本関係が生じないといえる。
分割型分割
既存会社の株式などを分割会社の株主に割り当てる手法。こちらも分社型新設分割と同じく廃止されているため、分社型分割と余剰金の配当活用による代替法によって、分割型分割の効果を得ている。
株式持ち合い
業務提携の補強
合弁企業の設立
リスクの分散
資本移動を伴わない提携(業務提携)
共同開発・技術提携
研究開発部門の補充・強化
OEM提携
工場生産部門の補充・強化
販売提携
営業販売部の補充・強化
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M&Aにおける企業価値評価(バリュエーション)
いくらで譲渡するのか・いくらで譲り受けるのかを決めるのに「企業価値評価(バリュエーション)」は重要な項目。
M&Aにおける「企業価値評価」は、企業が保有する資産の価値に加え、企業が今後創出するであろう収益力及びその源泉となる無形資産をも含めた価値を指す。
細分化すると、事業価値(企業の事業から創出される価値)に非事業用資産(事業を営むうえで必要不可欠でない余剰資産など)を加えたものが「企業価値」と言える。
この「企業価値」から、有利子負債といった債権者(=株主以外)に帰属する部分である他人資本を控除したものが株主に帰属する価値、すなわち「株式価値」。
この企業価値(株式価値)の求め方として、企業価値評価の理論(バリュエーション理論)における3つの評価アプローチを紹介。
コストアプローチ
概要:現在の正味財産に着目
算定イメージ:資産時価ー負債時価
メリット:シンプルで客観的、実態BSの把握が可能。
デメリット:収益性を加味しにくく相場を反映できない。
譲渡側の純資産をもとにした評価方法。一般的には、資産と負債を時価に置き換えて資産から負債を引いた時価純資産法に営業権を加える方法が選ばれている。
複雑な計算を必要としないため、シンプルで客観性があることが特徴。株価の相場を反映できないものの、時価純資産に営業権を加えることで、譲渡企業の収益性を加味した企業価値を算出できるため中小企業のM&Aで多く用いられる。
コストアプローチは以下のように分類される。このうち中堅中小企業のM&A実務においては『時価純資産+営業権法』が最もよく用いられる。
簿価純資産価額法
●帳簿上の資産から負債を差し引いて株主持分を計算する方法
●簿価純資産価額法は計算方法としてきわめて容易な方法であるが、一般的に取得原価主義に基づき帳簿上記載されている資産・負債の額は、現時点の価値を表示しているとは言いがたいため、株式売買取引目的で株式価値を計算する局面で直接利用されることは多くなく、重要性の小さな子会社株式の計算等で利用されている。
時価純資産価額法
●企業の資産、負債を時価評価して差額の時価純資産価額を株主持分として計算する方法
●時価純資産価額法による計算は、簿価純資産価額法よりも真の経済的実態を表していると言えるが、計算には一定の作業が必要となる。また、将来の企業価値を加味しているとは言えない。
時価純資産+営業権法
●時価純資産に、企業の超過収益力である営業権を考慮することにより、単なる清算価値あるいは再調達価値のみならず、将来の企業価値を加味した継続企業価値を表す方法
マーケットアプローチ
上場している同業の類似企業や類似の取引事例の財務指標と比較し、相対的な価値を評価する手法。
実際の相場感・トレンドを反映できるというメリットがあるが、「同業の類似企業」を見つけてくることが必要。中堅中小企業の事業に類似している上場企業というのは少なく、類似していても企業規模が全く異なるため同列に比較することが非常に困難であるケースが多い。類似取引についてもM&A取引のデータ収集といった問題により、利用するハードルは高い評価手法になる。
マーケットアプローチは以下のように分類され、中堅中小企業のM&A実務においては必ずしも適用できるわけではない、適用する場合には「類似会社比準法(マルチプル法)」が最もよく用いられる。また、相場・トレンドを最も反映できる手法は「取引事例法」になる。
市場価額法
●株式市場における株価を基に株式価値を計算する方法
●上場企業や株式の取引が活発に行われている企業の少数持分株式の売買を目的としたときに適用できる。
●非上場の中堅中小企業の株式は証券取引所等の株式市場で取引されておらず、また通常は直近における独立第三者間の取引事例がないため、市場価額法は採用されない。
類似業種比準法
●国税庁が業種ごとに公表する1株当たりの配当金額、1株当たりの利益金額及び1株当たりの純資産価額とそれに対応する株価をベンチマークとし、対象企業の1株当たりの配当金額、1株当たりの利益金額及び1株当たりの純資産価額から対象企業の株式価値を計算する方法で、相続税・贈与税の計算に利用されるケースが多い。
●類似業種比準法は、相続税の評価通達に定められた未上場株式の計算方法であり、相続対策や同族間での株式の移動を検討する際に適した計算方法であるが、独立した第三者間の取引価格を計算する際に利用することは適当ではない。
類似企業比準法【マルチプル法】
●基本的な発想は類似業種比準法と同様で、対象企業と規模・業種が類似する上場企業を数社選定し、株価・利益・純資産等をベンチマークすることにより、株式価値を計算する方法
●類似会社比準法の採用には、対象企業と規模・業種が類似する上場企業を複数選定できることが求められるため、中堅中小企業を対象とする場合、採用できるケースは限定的となる。
取引事例法
●過去のM&A 事例から、事業内容・地域・財務指標などが似ている企業の売買事例を選定し、その売買実績に基づいて価値算定を行う方法
●相場・トレンドを最も反映できる手法として優れているが、一般に公表されている中堅中小企業のM&A 取引のデータベースは存在せず、現実的にデータ収集が困難であるため、取引事例法を採用できる評価者が限られる。
インカムアプローチ
評価対象企業の将来の収益性に着目して価値を評価する手法。
インカムアプローチは以下のように分類される。中堅中小企業のM&A実務においては必ずしも適用できるわけではないが、適用する場合には「DCF法(ディスカウンティドキャッシュフロー法)」が最もよく用いられる。
DCF法【ディスカウンティドキャッシュフロー法】
●企業が将来獲得すると期待されるキャッシュ・フローを現在価値に割り引いた合計額を基礎に株式価値を計算する方法
●現状、利益がでておらず純資産も少ない研究開発型ベンチャー等においては、他の計算方法によると株式価値がゼロあるいは少額となってしまうケースがある。このような場合、事業計画をもとに、リスク要素を相応に反映させることにより、DCF法による試算を検討することがある。
●なお、この方法を採用するためには少なくとも3~5年の信頼できる事業計画が必要となる。
収益還元法
●企業の予想利益を資本還元率で除して株式価値を計算する方法
●収益還元法による株価計算のためには、DCF法と同様に信頼性の高い利益あるいはキャッシュ・フローの計画値が必要となる。
配当還元法
●企業からの配当金額を資本還元率で除して株式価値を計算する方法
●収益還元法が企業の収益獲得能力に着目しているのに対し、配当還元法は企業の配当金額に着目して、その投資効率の面から株式価値を計算する方法である。したがって、事業のシナジーを求める通常のM&A において採用されるケースは殆どない。
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M&A仲介会社やプラットフォームへの手数料や費用
- 相談料
- 着手金
- 中間金
- 月額報酬(リテーナーフィー)
- 成功報酬
※ユーザーが自ら相手先企業を見つけるプラットフォームの利用においては、譲渡側は無料、譲受け側には使用手数料や成約手数料が発生するケースが多く見られる。
M&Aで発生する税務
譲渡側における検討事項
譲渡側の株主であるオーナー社長がM&Aで株式を売却した場合や、譲渡企業が退職金を支給した場合には所得税(復興税を含む)と住民税が課税される。
採用するスキームは株式譲渡のみではなく、案件によって事業譲渡という手法を採用するケースもある。事業譲渡の場合には、譲渡企業に法人税等が課される。その他にも消費税や不動産取得税、登録免許税、印紙税などの流通税の検討が必要となるケースもある。
さらには、組織再編等を組み合わせたスキームやM&A後の資産運用が選択肢としてある場合もあり、M&Aを検討するにあたっては広範囲な税務の知識が求められる。
譲受側における検討事項
譲受側では、退職金や繰越欠損金をはじめ、M&A実行時のみならず、M&A実行後数年間の譲渡企業における税金計算に影響を及ぼす事項について検討を行う。
この時の検討は、M&Aを機に引退するオーナーへの役員退職金や対象会社の繰越欠損金といった個別事項のみならず、スキーム毎に生じる税務上の論点まで多岐にわたる。
検討される主な税金
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M&Aの歴史と動向
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今後の中小企業M&Aのカギを握るのは、2020年に策定された「
中小企業が安全かつ円滑にM&Aを進められるよう、従来の補助金のような費用面だけでなくM&A支援機関の登録制度や、自主規制団体の設立など、今後5年官民連携型でM&A推進のための取り組みが盛り込まれている。
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M&Aの流れ
